「TVCMのURL表示制限」への懐疑

あちこちのサイトで「TVCMのURL表示制限」という話題を見る。内容はテレビCMにおける企業URLの表示が制限されているのではないか。という内容で、「インターネットとテレビなど既存メディアが融合されていく中で、既存メディアとしてのテレビの危機感がインターネットを切り離そうとしているのではないか」というような論調に行き着いているように思う。しかし、本当なのか?


この話のネタ元は大体この三つのようだ。

TVCMのURL表示制限〜シリーズ「砕氷船ライブドア」(4)〜 (佐々木敏:週刊アカシックレコード050418)
追いかけられる。(lovedoor 社長日記:2005年03月20日)
テレビCMからURLが消える日(PJ三國裕史【神奈川県】2005年04月20日)

佐々木敏に堀江にPJニュースかよ!「はいこのネタガセに決定、証明終わり!」ってな気分になるけど。世の中にはアカシックレコード免疫ができていないヒトも大勢いらっしゃるようで、Googleで「TVCMのURL表示制限」を検索すると 4,080件ものヒットが得られる。(ここ

全部が全部佐々木の話を信じているわけではないようだけど、中には「だからテレビは」とか「既存のメディアは」とかって評価的な結論に達しているヒトも少なくない。

そもそも言及しているヒト達の情報源は上の三つから出ていない。その他にこの問題を具体的に検証しているところは見当たらないのだ。これって何かヘンじゃない?
上の三つの話は堀江から出て佐々木に渡って、さらにそれをPJが参照するって構造になっている。そしてそれを4000ものサイトが喧伝する。

その間、誰も具体的な裏取りをしないまま、テレビはどうだとか、既存のメディアがなんだとかって結論が渦巻く。これはあまり健全な態度とは思えない。なぜ検証しないのだろうか、またはそれが無理でも「保留」という態度が取れないのか?(そもそも佐々木敏だよ、っていう言い方は良くないんだろうけど)

佐々木は具体的に「ある地域の『テレビ局CM責任者会議』なる機関が定めた『合意』と『指針』」という文章があるとしている。さて、「テレビ局CM責任者会議」なる機関とは何なのだろうか。わたしはこの「機関」の存在に懐疑的だ。懐疑的だが証明はできない、不在の証明は悪魔の証明、非常に困難であることは即座に判断が付く。しかし、「ある地域」のローカル局が横断的にCMの内容に対する取り決めをするのだろうか。

実際にある広告代理店の社員(複数)とテレビ番組の制作に携わっているヒトに聞いてみた。勿論、わたしの狭い交友関係の中での取材なのでこれが全ての真実とは思わないが、面白い示唆もあった。
まず、「テレビ局CM責任者会議」とかそれに類するような機関はあるのかとの問いかけには、「聞いたことが無い」との事だった。

ちょっと話はそれるが、「CM責任者」という概念は「テレビ局」には無いか、回避するのではないかという意見があった。(佐々木敏も参照している)この記事(ITmedia)には

高性能のDVD録画再生機は、見たくない部分を自在に飛ばす「編集」ができ、CMカットも容易に出来る。日枝会長は「放送は1時間すべてが著作物と考える学者もいる。いろんな問題を含んでいる」と語った

と「CMカット問題」においてすっかり有名人になった日枝会長の「放送とはCMも含んで一体の著作物である」というような主張がなされているのだけれど、先日、超大手クライアントである某化粧品メーカーがテレビCMで著作権問題に抵触しかけた。(資生堂:類似指摘受け、発毛促進剤CM中止)この時に「一体の著作物」として責任を取ろうとした放送局があっただろうか?

閑話休題。話を戻す。「テレビ局CM責任者会議」という機関については「不在の証明」は困難であろう。しかし、これだけを根拠に置く佐々木の記事を鵜呑みにするわけにはいかない。

また、PJニュースなどでも触れられているように佐々木の記事に言われる「例外」も多々ありそうに思える。なんにせよわたしはテレビをあまり見ないのでその実例を挙げることはできないが、例えばオダギリジョーの出演しているライフカードのCMなどは派手にURLを表示しているように思う。

確かに様々なCMでURL表示は一瞬しかされないようだが、そもそも15秒というスポット広告枠で1秒とか2秒の表示というのは、それでも過分な表示なのだそうだ。医薬品において法令で定められている「この医薬品の使用には…」という表示にしても一瞬のことでしかない。
また、一時確かにテレビCMに大々的にURLを訴える素材が増えたこともあるが、(1)現在ではどのような企業も大体において「ホームページ」を持っているのでURLを表示することに差別感がなくなった。(2)短時間にテレビ上でURLを表示してもサイトにまで誘引できるとは限らない。(ちょっと前物議をかもした "goo.co.jp" と "goo.ne.jp" のような誤認も起きる可能性がある。また、こういう例もあった
「株式会社バッファロー」:"http://buffalo.co.jp/"
「株式会社バッファロー」:"http://buffalo.jp/"
勘の良いヒトは、この例を探すときに、わたしが "melco.co.jp" を検索した事がお分かりでしょう。「メルコ」と言えばこのバッファローブランドを展開していた企業の名前だったのですが、同時に「三菱電機」の略称でもあって、ちょっとした混乱がありました。
今、"http://www.melco.co.jp/" にアクセスすると、"http://www.mitsubishielectric.co.jp/index.html" へのジャンプページにとび、「メルコ」は「メルコホールディングズ」として"http://www.melco-hd.jp/" にサイトを開設しているのですね)(3)上記のような誤認であればまだ問題は軽いのだが、誤認を使って思わぬ被害をこうむる可能性がある。例えば類似したサイトを開設されてしまうという問題が考えられる。(フィッシングとも言えないけど、それに似たような話がね)(4)リファなどで来訪者の動向を見ると、直接URLを打ち込むヒトよりも検索サイトなどからの来訪者が多い。
つまり、「IT(イット)革命」も行き渡りインターネットと言う存在が十分ポピュラーになるに伴い、テレビCM素材の中のURL表示が「落ち着いてきた」と言うことなのではないだろうか。

また、次のようなサイトもある。
TVCMからアクセスを獲得するためには?(Webドメインマーケティング)

結論と言うか、そもそも判っていたことだけど。これだけ曖昧な情報源から早計に「メディア論」を導き出すのはあまりにも危ういんじゃあないだろうか。