セキュアな社会を求める?(BSE編)

異常プリオン(左)と正常プリオン


昨日の「セキュアな社会を求める?」に似た話を山形浩生サイゾーの連載で展開していた。「絶対安全!」なんて求める方がどうかしているってのは大いに賛成なんだけど、やっぱりちょっと気がかりな事があって確認してみた。


先ずはその「気がかりな部分」

生後20ヶ月以下のウシは、検査したところで病気が検出できないのだよ。だから、やるだけ無駄なのだ(ついでにその後の危険部位除去で、リスクはほとんどなくなる)。全頭検査しても、20ヶ月以下のウシなら素通りして市場に出回るから、なんの意味もないってだけなの!
(「山形道場」(月刊サイゾー2005年5月)「BSEの全頭検査マンセー論」by 山形浩生)

現在日本ではBSE対策として全月齢、全頭のウシを検査の対象としている。厚生労働省農水省がこの対象を生後20ヶ月以上に引き上げ、20ヶ月以下については検査対象から外すという緩和策を取ろうとしているということなんだろう。
この背後には日本に牛肉輸入再開を求める米国と吉野家ファンの圧力がある。
山形のこの記事については大筋では同意するんだけど、この部分に「?」が沸いた。
「生後20ヶ月以下のウシは、検査したところで病気が検出できない」んだったっけ?
「やるだけ無駄」だったのか?
なら、今まで為されていた措置って、無駄なの?
税金返せバカヤロウ!ってなもんだ。
ちょっとあちこち見てみたら。
「BSE問題、不愉快な政治決着」
これは山形の主張に近い。

「狂牛病とアメリカ」(2004年7月6日:田中宇)やら
Speak Easy-日本の対BSE行政になるとなにやらきな臭くなってくる。

どうも「ウエスタンブロット法」とかがキーワードになりそうだ。
「ウエスタンブロット法」というのはゲル電気泳動*1を使って試料に含まれるタンパク質を分離し、更に抗原抗体反応を利用して特定のタンパク質を発色させその存在を確認するという方法らしい。
BSEの原因は、「プリオン」と呼ばれるタンパク質の異常であるといわれている。この「プリオン」に異常が発生し、その「異常プリオン」を体内に取り込んだウシがBSEに罹患し、更にそのウシを人間が食べ、「異常プリオン」に犯されると「変異型クロイツフェルトヤコブ病」が発症するとされている。
この「異常プリオン」と「正常プリオン」においてはアミノ酸組成に違いは無い。一部分の形状が異なるだけらしい。(この図の右が「異常プリオン」で左が「正常プリオン」だそうだ。)
なので「ゲル電気泳動」を利用した「ウエスタンブロット法」が有効であれば、それはウシの月齢には関係ない。もし、月齢20ヶ月以下のウシに「異常プリオン」が含まれていれば、「ウエスタンブロット法」によって検出できるだろう。
どうも「やるだけ無駄だったのか?税金返せバカヤロウ!」というのは早合点だったようだ。
では、山形は嘘を言っているのだろうか?
というと、そうではない。
山形はこう言っている。
「生後20ヶ月以下のウシは、検査したところで病気が検出できない」
そうなんだよね、このBSE問題の厄介なところは、この潜伏期間の長さによるものなんだ。なんでもウシの場合で16ヶ月以上、人間の場合は年というオーダーで「異常プリオン」を取り込んでから病変までかかるということになるらしい。人間の場合は、体内に「異常プリオン」を持っていても死ぬまで「変異型クロイツフェルトヤコブ病」が発症しないヒトも居ることだろう。
それはそれとして、どうも上の発言(記述)はBSEとか「変異型クロイツフェルトヤコブ病」の発症と、その原因物質(と目されている)「異常プリオン」の検出を上手にブレンドした記述なので心に引っかかったって事なんだろうね。



山形の主張はまあ置くにしても。
どうも、20ヶ月以下の検査無効論に「科学的根拠」は無いように思える。上記の「ウエスタンブロット法」やらその前段の「エライザ法」も、検査結果の信頼性は科学の問題というよりも実施する制度やコストといった経済的な問題なのではないかという気がする。
更に、20ヶ月以下の検査無効論に絡む米国牛肉の輸入問題というのもある。
そして、専門家の審議なんて見ていると、「国民の食の安全」を盾に自分の利益を狙っていそうな感じも受ける。こういった審議会ってもっと開かれたものにして利害関係とか整理できないのかな?どうせ、そんな利害関係からフリーな状態に出来ないって言うなら、いっそグタグタにしてやるって方法もあるんだろうけど。どうにも、血液製剤HIV問題における安倍英みたいな。プチ安倍英みたいなのが居そうで嫌だな。
厚労省農水省もお決まりのように、結論ありきで逃げを打っているばかりのような気もするしな。


*1:検査したい試料をゲルの入れ電圧を掛けてやると、マイナスからプラスに試料が流れる。小さな成分はゲルの中を通り抜けやすいが大きな成分は通り抜けに障害があるため移動に差がでる。この差を利用して成分毎に分解する方法