渋澤龍彦の「死刑反対論」

これも貼っておこう。これは主に自分の趣味としてという事になるかな。

■渋澤 龍彦 「愛の形而上学と死刑」より
 申すまでもあるまいと思うが,私は死刑反対論者である.その理由は,一言をもってすれば,理想主義的倫理はすべて幻想であると信じているからである.
 私がジャン・ジャック・ルソーのような人間を許しがたく思うのも,まず第一に,彼が根っからの理想主義的倫理の持ち主であるからであり,しかも社会契約思想の当然の帰結として,みずから死刑を認めないわけにはいかなかったからである.
 あえて暴論を吐くことを許していただくならば,理想主義的倫理の持ち主は,多くの場合,死刑賛成論者であり,社会契約論者もまた,しばしば死刑を肯定する者である.なぜかというに,理想主義者とは,換言すれば個人の没却の論理にほかならないからである.死刑反対論のための論拠は,これ以外のところから出てこなければならないのであろう.