ゲーム理論

先日、本屋によって色々とネタを仕込んでいたんですが、
そんな中でこういう本を見つけました。
ISBN:4796639330
「戦略思考で「先を読む!」ゲーム理論―未来を読み解く最新の思考術」
別冊宝島 969 佐々木 宏夫 編纂

ご本人のHPはここらしい、
きっちり左のフレームにご紹介がある。

はっきり言うが、酷い本だね。
その昔お好み焼き屋に置いてあった「BIG tomorrow」という雑誌をパラパラと
見た時のえもいわれぬ嫌な感触を感じた。(まだあるんだ!BIG tomorrow

あちこち違和感を感じまくりなんだけど、
ブランド力の価値みたいな例として三洋電機ソニーを取り上げている。
ソニーの失敗には色々な要因があるんだろうけど、敢えて三洋電機の成功と
比較するってんなら、「得意な分野の扱い」ってなもんじゃないのか?
広く知られているように三洋電機は様々な分野で問題がないわけじゃない、
しかし、CCD素子の分野で基盤技術を押さえて、CCDカメラでシェア30%を
確保しているらしい。翻ってソニートリニトロンという技術があり、
これがブラウン管ディスプレーでは売りになっていたが、逆にブラウン管に
対する思い入れ(または、過信)が昨今の液晶、プラズマといった薄型テレビ市場
への乗り遅れを起こした。
つまり、旬の基盤技術を持っている三洋電機は今調子がよく、
旬を過ぎたソニーは苦境に陥っているという事だろう。
当然、三洋電機にとっても、このCCDという市場がいつまで続くか判らないから
油断は禁物なんだよって事なんじゃないのか?

この両社の状況を「ブランド」なんて事で切れるんだろうか?

また、東京三菱銀行が他の銀行に較べて比較的業績が良いという事を、
「時には保守的な戦略が効果を持つこともある」というような結論で述べているけど、
そうなのか?
バブル以降の銀行再編が進む中で東京銀行三菱銀行というのは比較的傷が浅かった。
これってちゃんと理由があって、東京銀行はもともと外国為替銀行という性格があり
営業基盤が米国に載っていた。また三菱銀行ニューヨーク証券取引所に上場してい
たのであちらの基準にあったディスクロージャが求められていた。
もちろん、エンロンの例を引くまでもなく米国で商売していたからって健全な経営が
担保されるわけではないけれども、バブル期の日本に於ける他の銀行よりは健全な
経営がなされていたって事なんだろう。

確かに「戦略」をとるときには「保守/革新」「強気/弱気」「長期/短期」といった
選択肢はあるんだろうけど、これはその時々でどちらをとれなんてなかなかいえない、
それを「保守的な戦略が効果を持つこともある」なんてのは天気予報で
「明日は雨が降るかもしれません」といってるようなもんじゃないのか?

最高に笑えるのが
最後の方にコラム的にまとめてある「ゲーム理論」のトピックで、
その一つの「コースの定理
はてなにもキーワード登録してあるんだ。念のため
こっちの方が判りやすいかもしれん。
つまり、「交渉事はどちらが正しいだの間違ってるだのとは関係なく、
利害調整だけで解決をつける事ができるだろう」ってな「定理」なわけだ。

例を言うなら、工場と住宅地が隣り合って、
住宅地の住民が工場から出る騒音で迷惑しているとする、
この時、工場から住民に補償金を払うという解決策もあるし、
一見奇妙に見えるけれども、迷惑を被っている住民がお金を出して
工場に防音施設を設置して貰うという解決策もある。
工場がある場所に後から住宅ができたのならそれほど奇妙な解決策でもない。

この「定理」はどうも、なんでもかんでも公共的な仲裁者が居なくても
解決が計られる事もある、その時にはこのような普遍性がある。
とでも言ったような「定理」らしい。
また逆に、このような定理があるから必ずしもこういった問題が解決されるとは限らない。

こんな論考もある。

それをこの本では「コースの定理は、交渉成功のために、交渉の出発点設定が重要な
ことを示唆しているとも理解できる」と言っているんだけれど、そうなんだろうか?
さらに、その下の絵。
「登山の出発点が違えば、ルートも変わるが、最終的にたどり着くところは同じ」
というキャプションをつけて、一つの山に3つほどの登山ルートをつけて頂上で
万歳をしている人物が描かれている。まさかとは思うけど「コースの定理」を
「Cource の定理」(日本語に訳すと「行程の定理」)とでも理解してないか?

これは上のリンクでも書いてある通り、
シカゴ大学Ronald H. Coaseが提起した「Coase の定理」なんだろ。

学生が書いたものをまとめただけか知らんけど、
最近、宝島、品質落ちてきてる。